青果物流通研究会

メッセージ

GLSのホームページへようこそ

 リーマンショックに続いて欧州の債務危機が発生し、世界経済の根底が大きく揺さぶられています。また、わが国では東日本大震災によって人知を超えた自然災害の凄まじさ、それに引き起こされた原発事故によって現代の科学技術の脆さを経験することになりました。現代の経済・社会基盤の危うさが一層明らかになってきました。2010年代は、社会のパラダイムを大きく変える時代となることは間違いなく、その備えとして経済、政治において様々な変革が求められています。当然のことながら、食に関わる制度や組織もその例外ではありません。昨今の農産物・食料の国際市場の不安定な動きをみただけでも事の深刻さは容易に理解できます。

 それでは、どちらに向って変革していけばよいのでしょうか。GLSではまさにそのことを、大きな社会のあり方と身近なビジネスのあり方の両面から、皆さんと議論していきたいと考えています。

 私は今後のフードチェーンやフードビジネスを、オルタナティブフードシステムという考え方に基づいて制度設計し直していくべきではないかと考えております。オルタナティブとは「もう一つの」「代わりの」という意味です。オルタナティブフードシステムは、これまでの仕組みの延長線上でカイゼンしたものではなく、挑戦的な新しい理念に基づいて枠組みそのものを作り直したものであるべきです。それは、これまでにないコミュニケーション手法によって生産者と消費者がより緊密な関係を築きながら、農産物や食品の先進的な生産・加工・流通・販売を実行していく革新的な仕組みです。それらの先駆的な取り組みとして、すでに産直や契約取引などが実践されてきましたが、さらに現代の科学技術によって強化された新たな農産物・食品流通が登場する予感があります。そのようなオルタナティブフードシステムは、新しい消費社会の潮流に適合するシステムでもあると考えております。

 私は、ここで前提とする新しい消費社会の潮流を「ネオポストモダン型消費」と名付けたいと思います。ネオポストモダン型消費とは、バブル崩壊以降に観察されるようになったわが国の食料消費の姿で、ある場面では「縮む消費」またある場面では「選ぶ消費」といった現れ方をしますが、その内実は「賢い消費」とでも言うべき成熟した社会を前提とした深い考えのもとでの消費です。戦後の食料消費の動向については、すでにモダン、ポストモダンという社会学的枠組みによる考察が行われております。ネオポストモダンとは、それらを発展させて今後の社会のあり方を考察するために提案した一つの仮説です。

 これからの消費はネオポストモダン型消費として捉えることが妥当なのか、もしそうだとしたならば、そのことにオルタナティブフードシステムという枠組みが適切であるのか、そしてオルタナティブフードシステムを構築するには具体的にどのようなシステムや手段が必要となるのかを明らかにしようと考えております。例えば旧来の卸売市場流通は、ポストモダン以前のモダン型消費を前提に確立されたシステムであることは間違いありません。市場流通の今後を検討するには、ネオポストモダンという視点は欠かせないのではと思います。

 これらの検討については、先進的実践的な取り組みの評価はもちろんのこと、場合によってはある種の社会実験を試みる必要があるのではないかと考えております。GLS会員の皆さんの積極的な参画を歓迎したいと思います。

会長 中嶋 康博

[ 中嶋康博 プロフィール ]
昭和58年3月
東京大学農学部農業経済学科卒業
昭和60年3月
東京大学大学院農学系研究科修士課程農業経済学専攻修了
平成元年3月
東京大学大学院農学系研究科博士課程農業経済学専攻修了
平成元年4月
日本学術振興会特別研究員(PD)(東京大学)
平成2年4月
東京大学農学部助手
平成8年8月
東京大学大学院農学生命科学研究科助教授
平成19年4月
東京大学大学院農学生命科学研究科准教授
平成24年4月
東京大学大学院農学生命科学研究科教授
 
現在に至る
[ 主な著書 ]
  • 『アメリカのフードシステム』(監訳)日本経済評論社、1996.2
  • 『農業問題の経済分析』(共著)日本経済新聞社,1998.11
  • 『フードシステム学の理論と体系』(共著)農林統計協会、2002.4
  • 『食品安全問題の経済分析』日本経済評論社、2004.2
  • 『食の安全と安心の経済学』コープ出版、2004.8
  • 『食と農を学ぶ人のために』(共著)世界思想社、2010.5
  • 『食の経済』(編著)ドメス出版、2011.10
    他多数